パリ、1964年。 アルベルト・ジャコメッティ(ジェフリー・ラッシュ)の個展が開かれている。友人で作家のジェイムズ・ロード(アーミー・ハマー)は肖像画のモデルを依頼される。アメリカに帰国寸前だったロードは、彼の「2日で描き上げる」との言葉を信じて、イポリット=マンドロン通り46番地にあるアトリエへ向かった。作家であるロードにとって、巨匠の仕事を間近で見られるチャンスと張り切るが、18日にも及ぶ地獄のセッションになるとは予想もしていなかった。
当時すでに名声を得ていたジャコメッティだが、自宅兼アトリエは狭く汚く古びており、そこに妻のアネット(シルヴィー・テステュー)と右腕的存在の弟ディエゴ(トニー・シャルーブ)の3人で暮らしている。アトリエに乱雑に置かれた未完成の作品の数々に圧倒されるロードの心中なぞ気にも留めず、ジャコメッティは真っ白なカンバスをイーゼルに立てかけた。ロードの顔の角度を微妙に調整し、パレットに絵の具を出し、たばこをくわえながら描き始める。「肖像画とは決して完成しないものだ」と不吉な言葉を発しながら……。
モデル1日目のセッションが終了した。カンバスは完成にはほど遠い。そこへジャコメッティのミューズ的存在の娼婦のカロリーヌ(クレマンス・ポエジー)がフラリと現われる。苦虫を噛み潰したような表情で作業していた時とは一転、陽気なカロリーヌにジャコメッティはメロメロだった。アトリエの外には悲しそうに見つめるアネットが。2人は3年間も、妻の目の前で堂々と不倫しているのだ。
2日目。ジャコメッティはなぜか集中力を欠き、「絶対に完成しない」と叫び始めた。肖像画は未完成で、ロードは帰国を延期する。
3日目。筆は遅々として進まない。モデル経験のあるアネットと話すうちに、ロードは肖像画が完成しないのではと不安を感じる。
4日目。ジャコメッティは「明日は本格的に始める」と上機嫌だ。しかし、突然現れたカロリーヌに邪魔されて、セッションは終了。アトリエの外では、ジャコメッティの親友、矢内原伊作とアネットがお楽しみ中だ。
5日目。ジャコメッティは行方不明になったカロリーヌのせいで癇癪を起こし、セッションは絶不調に。
数日後、カロリーヌが舞い戻り、セッションが再開される。さらなる帰国の延長でロードは恋人に愛想を尽かされるが、創作の合間にジャコメッティから聞くピカソとの裏話や、目に見える現実を作品で表現するために葛藤するジャコメッティとのセッションは、何物にも代えがたい貴重な体験だ。
14日目。ジャコメッティは完成間近の肖像画を太い筆で消す。絶望するロードに「希望が最高潮になると、私は投げ出すんだ」と笑う。15、16、17日目。描き、叫び、消すが繰り返される。果たして、ロードは恋人の待つNYへ帰れるのだろうか。肖像画は無事、完成するのか……。